Document of c-modernization-kit (porter) 1.0.0
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プロトコル仕様

ネットワーク層

  • トランスポート: UDP/IPv4(unicast / multicast / broadcast / unicast_bidir)または TCP/IPv4(tcp / tcp_bidir)
  • IPv6: 非対応
  • バイトオーダー: すべてのワイヤーフォーマットはビッグエンディアン (ネットワークバイトオーダー、NBO)

パケット構造

すべてのパケットは共通のヘッダー (36 バイト) とペイロード (0〜1,400 バイト) で構成されます。 UDP データグラム 1 個が外側パケット 1 個に対応します。

外側パケット (PotrPacket)

0 1 2 3
0 1 2 3 4 5 6 7 8 9 0 1 2 3 4 5 6 7 8 9 0 1 2 3 4 5 6 7 8 9 0 1
+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+
| service_id (int64) [高位 32 bit] | 8バイト
+ -+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+
| service_id (int64) [低位 32 bit] |
+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+
| session_tv_sec (int64) [高位 32 bit] | 8バイト
+ -+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+
| session_tv_sec (int64) [低位 32 bit] |
+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+
| session_id (uint32) | 4バイト
+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+
| session_tv_nsec (int32) | 4バイト
+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+
| seq_num (uint32) | 4バイト
+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+
| ack_num (uint32) | 4バイト
+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+
| flags (uint16) | payload_len (uint16) | 4バイト
+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+
| payload (0〜1,400 バイト) |
| ... |
+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+

ヘッダー固定長: 36 バイト

フィールド 型 (NBO) 説明
service_id int64 サービス識別子。受信時に設定ファイルの値と照合する
session_tv_sec int64 セッション開始時刻 (POSIX 秒)
session_id uint32 セッション乱数識別子
session_tv_nsec int32 セッション開始時刻 (ナノ秒部、0〜999,999,999)
seq_num uint32 パケット通番。各セッション開始時に 0 からカウント
ack_num uint32 NACK・REJECT 時: 対象通番。PING 要求時: 0(固定)。PING 応答時: 対応する要求の seq_num。DATA・FIN 時: 0
flags uint16 パケット種別フラグ (下記参照)
payload_len uint16 ペイロード長 (バイト) 。0〜1,400
payload 可変長 ペイロードデータ (最大 1,400 バイト)

パケット種別フラグ (flags)

定数 説明
POTR_FLAG_DATA 0x0001 データパケット。ペイロードにエレメントを含む
POTR_FLAG_NACK 0x0002 再送要求。ack_num に要求する通番を格納
POTR_FLAG_PING 0x0004 ヘルスチェック要求。ペイロードなし (payload_len=0)
POTR_FLAG_REJECT 0x0008 再送不能通知。ack_num に再送不能な通番を格納
POTR_FLAG_FIN 0x0010 正常終了通知。ペイロードなし (payload_len=0)

flags 種別ごとの ack_num の意味

flags ack_num の意味
POTR_FLAG_DATA 0(固定、無視)
POTR_FLAG_NACK 再送要求の通番
POTR_FLAG_PING(要求) 0(固定)
POTR_FLAG_PING(応答) 対応する要求の seq_num
POTR_FLAG_REJECT 再送不能の通番
POTR_FLAG_FIN 0(固定)

ack_num の意味はパケット種別(flags)ごとに独立しているため、NACK / REJECT パケットでの ack_num 使用とは競合しません。

TCP ストリームからのパケット読み取り

UDP はデータグラム境界がパケット境界と一致しますが、TCP はバイトストリームです。 受信側は次の 2 ステップでパケットを読み取ります。

① ソケットから 36 バイト読み取る(ヘッダー確定)
② ヘッダーの payload_len バイトを追加読み取る(ペイロード確定)

ヘッダーフォーマットが変わらないため、将来の TCP↔UDP ブリッジ実装を容易にします。

TCP モードにおける ack_num の追加用途

UDP では ack_num は NACK / REJECT の対象通番として使用します。 TCP では NACK / REJECT が不要なため、**PING 要求と PING 応答の識別**にも使用します。

ack_num の値 意味(TCP PING 時)
0 PING 要求(応答を求める)
N(N > 0) PING 応答(seq_num = N の PING 要求への返答)

DATA パケットでは ack_num は 0 固定とし、受信時は無視します。

TCP モードでのパケット種別フラグ使用可否

フラグ TCP で使用するか 理由
POTR_FLAG_DATA データ送信に使用
POTR_FLAG_NACK × TCP が配送を保証するため不要
POTR_FLAG_PING ヘルスチェック。ack_num=0 で要求、ack_num=N で応答
POTR_FLAG_REJECT × 再送不能は発生しない
POTR_FLAG_FIN × TCP 切断(close())が FIN 相当のため不要
POTR_FLAG_ENCRYPTED UDP と同様に使用可能

TCP マルチパスにおける重複排除

複数の TCP 接続(path)が確立されると、送信スレッドは全アクティブ path に同一 seq_num のパケットを送信します。 受信側は複数の path から同一パケットを受け取るため、重複排除が必要です。

UDP マルチパスで実装済みの window_recv_push() / window_recv_pop() をそのまま流用します。 複数の recv スレッドが同一の recv_window に並行してアクセスするため、 呼び出し前後を recv_window_mutex で保護します。

recv スレッド #i:
recv_window_mutex を lock
window_recv_push(recv_window, pkt) → 重複なら FAIL を返す
recv_window_mutex を unlock
FAIL の場合: continue(コールバック呼び出しなし)
recv_window_mutex を lock
while window_recv_pop(recv_window, out) == SUCCESS:
recv_window_mutex を unlock
deliver_payload_elem(out) ← コールバック呼び出し前に unlock
recv_window_mutex を lock
recv_window_mutex を unlock

フラグメント化メッセージへの適用: フラグメントは外側パケット(コンテナ)単位で seq_num が付与されます。 POTR_FLAG_MORE_FRAG は内側ペイロードエレメントの管理に使うフラグであり、 パケット単位の重複排除ロジックとは干渉しません。UDP マルチパスと同一の動作をします。

PING との機能競合: PING パケットは window_recv_push() を通さず、recv スレッド内で直接処理します。 したがって PING と重複排除ウィンドウは機能競合しません。

ペイロードエレメント (パッキングコンテナ)

DATA パケットのペイロードには、1 つ以上のペイロードエレメントが連続して格納されます。 これを**パッキング**と呼び、複数の小さなエレメントを 1 つの UDP パケットにまとめて送信効率を高めます。

エレメントのフォーマット

+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+
| elem_flags (uint16, NBO) | 2 バイト
+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+
| payload_len (uint32, NBO) | 4 バイト
+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+
| payload (payload_len バイト) | 可変長
+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+

エレメントヘッダー: 6 バイト固定

ヘッダーフィールド (elem_flagspayload_len) はネットワークバイトオーダー (NBO) で格納します。 payload 部はアプリケーションが potrSend() に渡したデータをそのままコピーしたバイト列であり、 porter はバイトオーダーの変換を行いません。エンディアン管理はアプリケーションの責務です。

エレメントフラグ (elem_flags)

定数 説明
POTR_FLAG_MORE_FRAG 0x0001 後続フラグメントが存在する (フラグメント続行)
POTR_FLAG_COMPRESSED 0x0002 ペイロードが raw DEFLATE 圧縮済み

パッキングの動作

送信スレッドは送信キューから複数のエレメントを取り出し、1 つの DATA パケットにまとめます。 以下の条件に該当するエレメントは単体で送信されます (直前のパケットをフラッシュしてから送信) 。

  • POTR_FLAG_MORE_FRAG フラグが立っているエレメント (フラグメントの中間)

セッション識別

目的

送信者プロセスの再起動後に OS が同一の ephemeral ポートを再利用した場合や、 ネットワーク上に残留した前セッションのパケットが遅延して届いた場合に、 受信者がそれらを誤って処理しないようにします。

セッション識別子の構成

送信者は potrOpenService() 呼び出し時に以下を決定し、以後のすべてのパケットに付与します。

フィールド 決定方法
session_id 乱数 (シード: 現在時刻 × PID)
session_tv_sec CLOCK_REALTIME (Linux) または GetSystemTimeAsFileTime() (Windows) による現在時刻 (秒)
session_tv_nsec 同上 (ナノ秒部)

採用判定はタイムスタンプを同一送信者の 2 パケット間で比較するため、 送信者と受信者のクロック同期には依存しません。

受信者のセッション採用ポリシー

受信者は受信したパケットの識別子を、現在追跡中のセッションと比較します。

1. session_tv_sec が現在追跡中より大きい → 新セッションとして採用
2. session_tv_sec が等しく session_tv_nsec が大きい → 新セッションとして採用
3. 上記が等しく session_id が大きい → 新セッションとして採用 (タイブレーク)
4. それ以外 → 旧セッションのパケットとして破棄

新セッション採用時 (および FIN 受信・ヘルスチェックタイムアウト後の再接続時) は、 受信ウィンドウを 最初に受信したパケットの seq_num で初期化します。 これにより、送信者が任意の通番から送信を再開した場合でも、NACK/REJECT サイクルなしに即時同期できます。

クロック逆行時の挙動

OS クロックが手動設定や NTP スラムで過去に戻った場合、新セッションのタイムスタンプが 旧セッションより小さくなり、受信者のセッション採用ポリシー上は「旧セッション」と判定されます。 この状況での挙動は health_timeout_ms の設定により異なります。

ヘルスチェックタイムアウト有効 (health_timeout_ms > 0)

送信者が再起動すると旧セッションの PING が途絶えるため、health_timeout_ms 経過後に ヘルスチェックタイムアウトが発火します。タイムアウト時は FIN 受信と同様に DISCONNECTED イベントが発火し peer_session_known がクリアされます。 その後、次に到着したパケット (タイムスタンプが逆転した新セッションを含む) を 無条件に採用して CONNECTED イベントが発火します。 クロック逆行があっても health_timeout_ms の待機を伴う切断・再接続を経て自動回復します。

ヘルスチェックタイムアウト無効 (health_timeout_ms = 0)

peer_session_known がクリアされる契機がなく、旧セッションが追跡中のまま残ります。 タイムスタンプが逆転した新セッションのパケットは永続的に破棄されます。 これはヘルスチェック無効環境における既知の制限です。

unicast_bidir N:1 モードのピア識別

unicast_bidir の N:1 モードでは、サーバは各受信パケットの session triplet (session_id + session_tv_sec + session_tv_nsec) を使ってピアを識別します。recvfrom() の送信元 IP:Port は、ピアへの返信先パスを学習するために使用し、一次識別キーには使いません。

識別手段 用途
session triplet ピアの検索・新規作成判定
recvfrom() の送信元 IP:Port 返信先アドレスの学習、パス追加
src_port 設定 N:1 サーバでの任意の送信元ポートフィルタ

N:1 モードの各ピアは、以下の状態を独立して持ちます。

  • 自セッション ID / 相手セッション ID
  • seq_num 系列
  • 送信ウィンドウ / 受信ウィンドウ
  • フラグメント結合状態
  • ヘルスチェック状態 (health_alive、最終受信時刻)
  • 学習済み返信先パス

未知の session triplet を受信したとき、空きスロットがあれば新規ピアを作成して POTR_EVENT_CONNECTED を発火します。max_peers に達している場合はエラーログを残して当該パケットを破棄します。

通番管理

型と範囲

通番 (seq_num) は uint32_t の循環カウンタです。各セッション開始時に 0 から始まり、 最大値に達すると 0 に折り返します。

折り返し対応の比較

通番の新旧を比較する際は、単純な大小比較ではなく折り返しを考慮した比較を使用します。 差が UINT32_MAX / 2 未満であれば、a が b より後から送信された (新しい) と判断します。

通番の付与タイミング

通番は送信スレッドが DATA パケットを送出する際に付与します。 フラグメント化されたメッセージの各フラグメントはそれぞれ独立した通番を持ちます。 PING パケットは送信側の next_seq (次に割り当てる DATA の通番) を seq_num に格納しますが、通番を消費しません。

RAW モードにおける通番の役割

RAW モード (unicast_raw / multicast_raw / broadcast_raw) でも通番はインクリメントされますが、 **再送制御には使用しません**。AES-256-GCM のノンス生成 (session_id + seq_num) にのみ使用します。 受信側では通番を使って順序整列とギャップ検出を行い、ギャップ検出時は NACK の代わりに POTR_EVENT_DISCONNECTED を発行します。

TCP モードにおける通番の役割

目的 TCP での利用
再送制御(NACK ターゲット) 不使用
順序整列 不使用(TCP が保証)
AES-256-GCM ノンス生成 使用(session_id + seq_num
フラグメント順序確認 使用(デバッグ・ログ用途)

スライディングウィンドウ

TCP モードではスライディングウィンドウを使用しません。 TCP は順序保証・配送保証があるため、再送制御・順序整列のいずれも不要です。 以下の記述は UDP 通信種別(unicast / multicast 等)に適用されます。

目的

  • 送信ウィンドウ: NACK 受信時に再送するために、過去パケットのコピーを保持する
  • 受信ウィンドウ: 到着順序が入れ替わったパケット (追い越し) をバッファリングし、通番順に整列する

ウィンドウサイズ

設定パラメータ window_size で指定します。デフォルト 16、最大 256。

送信ウィンドウの動作

送信スレッドは DATA パケットを送出するたびに送信ウィンドウに登録します。 PING パケットはウィンドウに登録されません (NACK・再送の対象外) 。 ウィンドウが満杯になると、最も古いエントリを evict (削除) して循環利用します。 evict された通番に対して後から NACK が届いた場合、そのパケットは再送不能となり REJECT を返します。

受信ウィンドウの動作

受信スレッドは届いたパケットを受信ウィンドウに格納します。 期待する通番より大きい通番のパケット (追い越し) もウィンドウ内に保持します。 ウィンドウの先頭から連続した通番のパケットが揃ったところで、上位層へ順番に渡します。

欠番検出と NACK 送出 (通常モード)

受信ウィンドウが、期待する通番より大きい通番のパケットを受け取った場合、欠番が生じています。 受信スレッドは欠番となっている通番を特定し、送信者へ向けて NACK を送出します。

欠番検出と即切断 (RAW モード)

RAW モードでは NACK を送出しません。欠番を検出した場合 (DATA の追い越し到着・PING の seq_numrecv_window.next_seq より前方にある場合) の動作:

  1. POTR_EVENT_DISCONNECTED をコールバックで通知する
  2. 受信ウィンドウを到着パケットの通番でリセットする
  3. 到着パケットを配信し、POTR_EVENT_CONNECTED をコールバックで通知する

追い越しパケット自体は破棄されません。ギャップをまたいで届いた最初のパケットが即座に配信されます。

reorder_timeout_ms との組み合わせ: reorder_timeout_ms > 0 の場合、欠番を検出しても 即座に DISCONNECTED を発行せず、指定時間だけ待機します。待機中に欠落パケットが届いた場合は 通常どおり順序整列して配信します (DISCONNECTED は発行されません)。 タイムアウトを経過してなお欠落のままであれば DISCONNECTED を発行してセッションをリセットします。

フラグメント化と結合

フラグメント化 (送信側)

1 回の potrSend() で送信するデータが max_payload を超える場合、複数のフラグメントに分割します。 圧縮を指定した場合は圧縮後のデータをフラグメント化します。

各フラグメントは個別のペイロードエレメントとして送信キューに積まれ、 後続フラグメントが存在する場合は POTR_FLAG_MORE_FRAG フラグを立てます。 最終フラグメントには POTR_FLAG_MORE_FRAG を立てません。

フラグメント結合 (受信側)

受信スレッドは POTR_FLAG_MORE_FRAG フラグを監視し、フラグメントをバッファに蓄積します。 POTR_FLAG_MORE_FRAG がないエレメントを受け取った時点でフラグメント結合が完了し、 完全なメッセージとしてコールバックを呼び出します。

フラグメントバッファのサイズは最大 65,535 バイトです。

再送制御

TCP モードでは再送制御(NACK / REJECT)を使用しません。 TCP 自身が信頼性のある配送を保証するためです。 以下の記述は UDP 通信種別に適用されます。

方式

通常モードは NACK のみ方式 (ACK なし) を採用します。 通常時は ACK を返さないためスループットが高く、問題発生時のみ受信側から通知します。

RAW モードでは再送制御を行いません。送信ウィンドウへの登録は行いますが、受信側から NACK が届いても無視します。 到達保証が不要で低遅延・ベストエフォートを優先する用途に適します。

再送フロー

1. 受信者が欠番を検出する
├─ reorder_timeout_ms == 0: 即 NACK を送出する
└─ reorder_timeout_ms > 0: タイムアウトまで待機
├─ 待機中に欠落パケット到着: 正常配信 (NACK 不要)
└─ タイムアウト経過: NACK を送出する
※ multicast/broadcast 通常モードではジッタを付加 (詳細は後述)
2. 受信者が欠番の通番を NACK パケットで送信者へ送出する
3. 送信者が NACK を受信し、該当通番のパケットを送信ウィンドウから検索する
4a. 該当パケットが存在する → 全パスへ再送する
4b. 該当パケットが存在しない (evict 済み) → REJECT パケットを返す

再送パケットはマルチキャスト・ブロードキャスト時でも全受信者へ送信されます。 これにより、他の受信者も再送パケットの恩恵を受けられます。

NACK タイムアウトジッタ (マルチキャスト/ブロードキャスト)

multicast / broadcast 通常モードかつ reorder_timeout_ms > 0 の場合、複数の受信者が同一欠番の NACK を同時に送出すると送信者への NACK が集中する (NACK implosion)。

これを回避するため、受信者ごとに reorder_timeout_ms の 100〜200% のランダムな待機時間を設定します。各受信者のタイマーが独立した時刻に期限を迎えることで、NACK が時間軸上に分散されます。

受信者 A の実効タイムアウト: reorder_timeout_ms + jitter_A (100%〜200%)
受信者 B の実効タイムアウト: reorder_timeout_ms + jitter_B (100%〜200%)
受信者 C の実効タイムアウト: reorder_timeout_ms + jitter_C (100%〜200%)

ジッタは monotonic クロックのナノ秒部を乱数源として計算し、外部 RNG への依存はありません。 unicast 通常モード・RAW モード全種別にはジッタを付加せず、reorder_timeout_ms をそのまま使用します。

NACK 重複抑制

マルチキャスト・ブロードキャスト環境では、複数の受信者が同じ通番の NACK を短時間に送る場合があります。 また、同一受信者が再送の到着を待たずに同じ NACK を複数回送る場合もあります。

送信者は直近 8 エントリのリングバッファで NACK 受信履歴を管理し、 同一通番の NACK が 200ms 以内に再度届いた場合は処理をスキップします。

REJECT の役割

送信者が REJECT を返す状況は、受信者が送信ウィンドウから evict 済みの通番を要求した場合です。

受信者は REJECT を受信すると:

  1. 直ちに POTR_EVENT_DISCONNECTED を発火する
  2. 欠落した通番をスキップし、次の通番から処理を再開できる状態になる
  3. 次のパケットが届いた時点で POTR_EVENT_CONNECTED を発火する

圧縮

方式

raw DEFLATE (RFC 1951) を使用します。

プラットフォーム 実装
Linux zlib (windowBits = -15)
Windows Compression API (MSZIP | COMPRESS_RAW)

両プラットフォームは同じ raw DEFLATE フォーマットを出力するため、 Linux 送信者と Windows 受信者 (またはその逆) の組み合わせで透過的に動作します。

圧縮データのフォーマット

圧縮ペイロードの先頭 4 バイトには、展開後のサイズを NBO の uint32 で格納します。

[展開後サイズ (uint32, NBO, 4 バイト)] [圧縮データ (可変長)]

受信者はこのサイズ情報をもとに展開バッファを準備します。

圧縮の適用単位

圧縮は potrSend()flags 引数に POTR_SEND_COMPRESS を指定することで制御します。 圧縮はメッセージ全体に適用した後にフラグメント化されます。 圧縮済みエレメントには POTR_FLAG_COMPRESSED フラグが立ちます。

圧縮後のサイズが元のサイズ以上になった場合 (圧縮効果なし) は、内部で自動的に非圧縮に切り替えて送信します。 この場合、圧縮前のデータを POTR_FLAG_COMPRESSED なしで送ります。

ヘルスチェックプロトコル

概要

送信者が定周期で PING パケットを送信し、受信者が最終受信時刻を監視することで疎通状態を管理します。 unicast / multicast / broadcast ではヘルスチェックは **一方向**(送信者 → 受信者のみ)です。 unicast_bidir では 1:1 / N:1 を問わず、各エンドポイントまたは各ピアが独立して PING 送信・応答を行います(後述「unicast_bidir のヘルスチェック動作」参照)。

送信者の動作

health_interval_ms > 0 のときヘルスチェックスレッドが有効になります。

ヘルスチェックスレッドは最終 DATA/PING 送信時刻を参照し、health_interval_ms が経過したときに PING を送信します。 データ送信が頻繁な場合、PING の送信は不要と判断されスキップされます。

受信者の動作

health_timeout_ms > 0 のときタイムアウト監視が有効になります。

受信スレッドは最終パケット受信時刻 (PING・DATA いずれも対象) を監視し、 health_timeout_ms が経過したとき、切断と判定します。

切断判定時:

  1. health_alive を 0 に設定する
  2. POTR_EVENT_DISCONNECTED をコールバックで通知する
  3. peer_session_known をリセットして次の接続を受け入れ可能にする
  4. 受信ウィンドウをリセットする (次に受信するパケットの seq_num で再初期化される)

次のパケットを受信したとき:

  1. セッションを採用し、受信ウィンドウをそのパケットの seq_num で初期化する
  2. health_alive を 1 に設定する
  3. POTR_EVENT_CONNECTED をコールバックで通知する

PING パケットの性質

  • seq_num には送信側の next_seq (次に送出する DATA に割り当てる通番) を格納します
  • PING はウィンドウに登録されません (NACK・再送の対象外)
  • ペイロードは空 (payload_len = 0)
  • 受信者は PING を受け取っても返信しません
  • 通常モード: 受信者は seq_num を上限として受信ウィンドウをスキャンし、欠番を一括 NACK します
  • RAW モード: 欠番スキャンは行わず、PING の seq_numrecv_window.next_seq より前方にある場合は POTR_EVENT_DISCONNECTED を発行してウィンドウをリセットします

unicast_bidir のヘルスチェック動作

PING パケットフォーマット(unicast_bidir)

種別 flags seq_num ack_num payload_len
要求 POTR_FLAG_PING 送信側の next_seq 0 0
応答 POTR_FLAG_PING 応答側の next_seq 要求の seq_num 0

両端の動作

1:1 モードでは両端それぞれ、N:1 モードではサーバが各ピアごとに独立して次を行います:
health_interval_ms 周期で PING 要求(ack_num=0)を送信する
相手から PING 要求(ack_num=0)を受け取ったら即 PING 応答(ack_num=要求の seq_num)を返す
last_recv_tv_sec を PING 応答受信時にも更新する
check_health_timeout() で last_recv_tv_sec を監視 → health_timeout_ms 超過で DISCONNECTED

UDP unicast_bidir で last_recv_tv_sec 監視だけで十分な理由

TCP では「OS レベルの接続が生存したままアプリケーション層がハングする」状況が起こり得るため、 PING 応答の個別タイムアウト監視が必要です。

UDP には接続概念がありません。相手のアプリケーションが停止すると、データパケットも PING パケットも 一切届かなくなります。last_recv_tv_sec が更新されないため、check_health_timeout() のみで 切断を検知できます。PING 応答の個別タイムアウト管理は不要です。

モード タイムアウト検知方法 理由
UDP unicast RECEIVER: last_recv_tv_sec 監視 SENDER が PING 送信、RECEIVER が監視
UDP unicast_bidir 1:1 は両端、N:1 は各ピア単位で last_recv_tv_sec を監視 相手停止で当該相手からの全パケットが途絶える → timeout 発火
TCP / TCP_bidir SENDER: PING 応答タイムアウト監視 OS 接続が生存したままアプリがハングし得る

TCP 通信種別のヘルスチェック動作

PING 送信のタイミング

UDP では最終 DATA/PING 送信から health_interval_ms が経過したときのみ PING を送信します(データ頻送時は省略)。 TCP では DATA 送信頻度に関わらず tcp_health_interval_ms 周期で PING を必ず送信します。 これは「OS 接続が生存したままアプリケーション層がハングする」状況に対応するためです。

タイムアウト監視

通信種別 役割 監視内容
UDP unicast 等 RECEIVER last_recv_tv_secudp_health_timeout_ms を超えたら DISCONNECTED
TCP / TCP_BIDIR SENDER PING 応答(ack_num > 0)が tcp_health_timeout_ms 以内に返らなければ DISCONNECTED(health スレッド)
TCP / TCP_BIDIR RECEIVER PING 要求(ack_num = 0)が tcp_health_timeout_ms 以内に届かなければ DISCONNECTED(recv スレッド)
TCP_BIDIR SENDER PING 要求(ack_num = 0)が tcp_health_timeout_ms 以内に届かなければ DISCONNECTED(recv スレッド)
TCP_BIDIR RECEIVER PING 応答(ack_num > 0)が tcp_health_timeout_ms 以内に返らなければ DISCONNECTED(health スレッド)

TCP は PING をトラフィック量に関わらず必ず周期送信するため、両端が互いの生死を独立して監視できます。 tcp_bidir では両端が PING 送信側・受信側の両方を兼ねるため、PING 応答タイムアウト(health スレッド)と PING 要求到着タイムアウト(recv スレッド)の 2 種類を両端で監視します。

マルチパス

送信者は最大 4 経路の UDP ソケットを同時に保持できます。 DATA パケット・PING パケット・再送パケットはすべての経路へ同時に送信されます。

経路の冗長化により、1 経路がパケットロスした場合でも他の経路で届く可能性があります。

NACK パケットは送信者へのユニキャストで返されます。 マルチキャスト・ブロードキャスト環境でも、NACK は送信元アドレスへユニキャストされます。 なお、受信者が保持する全パスのソケットからそれぞれユニキャスト送信されます。

定数・上限値

定数 説明
POTR_MAX_PAYLOAD 1,400 バイト DATA パケットのペイロード上限
POTR_MAX_WINDOW_SIZE 256 スライディングウィンドウの最大スロット数
POTR_MAX_MESSAGE_SIZE 65,535 バイト 1 回の potrSend() で送信できるデータの上限
POTR_MAX_PATH 4 マルチパスの最大経路数
POTR_SEND_QUEUE_DEPTH 1,024 送信キューの最大エレメント数
POTR_PAYLOAD_ELEM_HDR_SIZE 6 バイト ペイロードエレメントヘッダーの固定長
POTR_NACK_DEDUP_MS 200 ms NACK 重複抑制の時間窓
POTR_DEFAULT_RECONNECT_INTERVAL_MS 5,000 ms TCP SENDER 自動再接続間隔デフォルト
POTR_DEFAULT_CONNECT_TIMEOUT_MS 10,000 ms TCP SENDER 接続タイムアウトデフォルト